グランドセイコー SLGH005 白樺はムーブメントが素晴らしいです。



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2020年に登場したCal.9SA5です。限定品ではない通常ラインナップに搭載されたのはSLGH005が初です。そして2021年12月現在も通常モデルではSLGH005にしか搭載されていないムーブメントです。
従来のグランドセイコーメカニカル専用ムーブメントである9S系キャリバーは性能には文句ありません。72時間パワーリザーブの9S65/68や、36000ビートの9S85など、実用時計のムーブメントとしては十分に高性能です。
ただその見た目がつまらないんです。裏スケルトンにして見せるには萌え要素がないんです。
メカニズム的にもこれという特徴がなく物語性がほとんどありません。
受けやローターなどにはちゃんと装飾がされていて美しく仕上げられてはいますが、それだけ。
ものすごく失礼なことを言ってしまえばETA2892が思いっきりきれいに仕上げられたのと大差ない・・・(嗚呼)
それが9SA5では世界がアッと驚くすごいムーブメントとして登場したのです。
テンプ周りではグランドセイコー初の巻き上げヒゲとなりフリースプラング化されました。
慣性調整ネジ付きのテンプはただの丸い輪っか形状から段差のあるダイナミックなものになりました。
そしてテンプ受けは両持ちになり、他の輪列の受けも美しくカーブを描いたパーツに分割されました。



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さらに素晴らしいのは、セイコー独自の「デュアルインパルス脱進機」が採用されたことです。
機械式時計の脱進機は200年以上変わらずレバー式がほとんど。量産機ではオメガのコーアキシャル脱進機くらいしか革新的な脱進機はありませんでした。
デュアルインパルス脱進機のメカニズムは私には説明できないのでメーカーはじめ専門誌の解説を見ていただくとして、とにかく9SA5のエスケープメント周りはとても見ごたえのあるものとなっています。
そしてグランドセイコーらしく36000ビート(10振動)でありながら、ツインバレルで80時間というロングパワーリザーブを実現しています。
自動巻き機構は他の輪列と同じ階層に置く設計でムーブメントが薄くなっていることも特徴です。
分厚くマッチョになりがちだったグランドセイコーメカニカルですが、白樺はわずかながらスリムになって着用感の向上に貢献しています。
最新技術が出し惜しみなく盛り込まれている9SA5は、審美性に関しても今までのキャリバーとは一線を画しています。
美しい曲線で分割された受けがこれまでのセイコームーブメントに足りなかった工芸品的な魅力を何倍にも増しました。
そこに施すストライプ装飾でもっともメジャーなのはスイス製に多いジュネーブ・ストライプ(コート・ド・ジュネーブ)です。ストライプ装飾は高級腕時計のムーブメントには欠かせないものとなっています。グランドセイコーの9SA5には雫石川の緩やかな流れをイメージしたという日本らしいソフトなストライプ装飾が施されています。
パーツの面取り加工もある程度の数を作る量産機としてはこれ以上望むべくもないくらい丁寧な仕事です。
これでグランドセイコーもパテックやオーデマ並みになったとは言いませんが、IWCやオメガクラスとはステージが違う美しい装飾仕上げです。
わざわざ見せることもない機械から、審美性が高く積極的に見せるレベルの機械に一気にステージアップしました。
やっとライバルに追いついたのがグランドセイコーメカニカルとしては初の日付クイックチェンジです。ロレックスのデイトジャスト相当の機能ですね。日付がじわじわ変わるのではなく、午前0時を数分過ぎたあたりでパチっと瞬時に切り替わるものです。
クオーツの9Fキャリバーでは実現していたのに、メカニカルの9S系キャリバーでは9SA5で初めて実現した機能なんですよね。
日付変更禁止時間帯が存在するのは残念ですけど、その時間帯はこれまでの機械より少なくなっています。
ちなみにロレックスの最新ムーブメントは日付変更禁止時間帯がなくなりました。これにより利便性が向上し故障リスクが低減しましたので、グランドセイコーもあと一歩頑張ってほしかったところです。
最高の実用品であるグランドセイコーですから、着用精度は文句なく良好で、私の個体は+2.5秒ほどです。そしてリュウズの操作感など手に触れて動かす感触も滑らかで大変素晴らしいです。
これだけコストがかかったムーブメントですから、今後のグランドセイコーメカニカルが全て9SA5系列に置き換わっていくとは思いません。メカニカルモデルでも比較的高価格帯の機種に使われるのではないかと予想します。
キャリバー9SA5をニュースて知った時の衝撃は忘れられないです。自分のものとなった今も、時が過ぎるのを忘れて眺めていられます。