日本はまだまだ個別コンポーネントを組み合わせて重厚なシステムを構築するオーディオが主流だと思います。
世界的には集約型が注目されつつあるそうです。国内だとあまりそう感じません。
集約システムが主流になったら高価な単体機材が売れなくなる輸入代理店が拡販に消極的だから?



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KEF LS50 Wireless IIは、これだけで完結しているスピーカー一体型ネットワークオーディオシステムです。
スピーカーがメインで、そこにネットワークプレイヤー&アンプを集約させた完全一体型です。
LS50 Metaと同じMAT搭載12世代Uni-Qドライバーユニットに関する情報はけっこう目にします。しかしLS50 Wireless IIにはどんなアンプが搭載されているのか全く分かりません。
公開されている情報としては、KEFが設計したという、中低域用に最大出力280WのD級アンプ、高域用に最大出力100WのAB級アンプを搭載しているということくらい。
わざわざ「KEFが設計」と謳っているため、HypexとかICEPowerのOEMアンプモジュールを入れているということではなさそうです。
トータル380W+380W(!)という数値をみれば、相当なハイパワーアンプです。中低域と高域を2台のアンプで別々にドライブするバイアンプ、左右でアンプは計4台で、さらに電源も左右独立ですから、"デュアルモノラルバイアンプ駆動"ということになります。なんか字にすると凄ぇです。
LS50 Wireless IIの鮮烈でいつつもスムーズでパワフルでトランジェントの良さを感じさせるサウンドは、このアンプが相当よく作り込まれていることがあると思います。
デキの悪いD級アンプって数値上の出力だけ大きくても、音量を上げるとただうるさくなるだけで全然音が出てこないんですよね。中華デジタルアンプにはそういうスペック番長みたいなアンプが多いです。



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KEF LS50 Wireless IIは民家じゃ出すことが憚られる音圧でも破綻しないで整った音がリニアに増していきます。バイアンプの高域用アナログAB級アンプと高効率な中低域用D級アンプの絶妙なチューニングが生きていそうです。
でもこのサイズの中に電源を含めて納まるサイズですから、パワーアンプはディスクリートで組まれたものではなく、汎用のパワーアンプLSIが使われているのは間違いないのでしょう。気になってしかたがないので、誰かが分解記事をあげてくれてないかなぁと日々ググってますけど、ぜんぜん見つけられません。
ネットワークプレイヤーは、対応スペックだけ見たら一分の隙もないくらい優れた機能です。
PCMは384KHz/24bit、DSD256やMQAデコードにも対応。主だった音楽配信サービスもほぼ網羅、そしてRoon Ready。ワイヤレス系だってWi-Fi、Bluetooth、AirPlay2、Google Castと万全です。
(あれ、Amazon Alexaには非対応だったんだ・・・)
PCM384KHz/24bit、DSD256対応とはいっても再生時はネイティブではないです。LS50 Wireless IIの内部処理で必ずPCM192KHz/24bitに変換され、左右スピーカー間はPCM192KHz/24bit(有線接続時)もしくはPCM96KHz/24bit(無線接続時)で接続されるからです。
つまりKEF LS50 Wireless IIはどんなソースであれ、必ずダウンコンバートかアップコンバートされます。
これはアナログ入力でも同じです。高級な外付けDAコンバータからアナログ入力しても、LS50 Wireless IIでAD変換されて左右スピーカーに転送後、DA変換してパワーアンプで増幅されてスピーカーをドライブすることになります。パワーアンプにアナログ信号を直接入力することは不可能です。
DACに関する情報が見当たらずどんなチップが使われているのかわからないです。KEFと同じ英国メーカーってことでWolfsonなのかなーって妄想してますがどうなんでしょう。
その音はKEFがいうところのMusic Integrity EngineというDSPで調整された音です。KEFが作り込んだいわゆるコンピュテーショナルサウンドです。古のピュアオーディオはいかに原音を忠実にストレートに再生するかが正義だったわけですが、もうこれはデジタルプロセッシングで作り込まれた現代のHiFiサウンド。
オーディオに生涯をささげてきた昭和平成マニアにはとても耐えられない、ある意味で邪道なオーディオシステムなのかもしれないです。そういう自分も数か月前までは似たような考えをもっていましたから笑ってはいられません。
写真の世界もコンピュテーショナルフォトグラフィーが席巻しているのと同じく、オーディオもコンピュテーショナルサウンドが時代の趨勢なのでしょう。



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そうそう、LS50 Metaにはバスレフポートに詰めて低音の出方をチューニングするスポンジが付属していましたが、LS50 Wireless IIには付属していません。物理的にチューニングするのではなく、KEF ConnectアプリでちょいちょいとDSPを弄って調整するコンセプトだからです。
いわゆるイコライザですけどそんなに単純ではなくて、本当によく効く調整機能なんです。反響による濁りとかブーミーな低音のボワつきとか、かなり良好に補正できます。
LS50 Metaほどスピーカーの前後左右の設置スペースを厳密に規定していないのはこのDSP処理による補正に自信があるのでしょうね。
イコライザー設定の「ノーマルモード」ではスピーカーを設置している状況に応じてスライダーを動かせばいいだけなのですが、これが結構抑制されすぎで寂しい音になってしまいます。
「エキスパートモード」で音を聴きながら、ほどよく補正が効くパラメーターを設定したほうが好みに合う音になると思います。

というわけで、KEF LS50 Wireless IIは導入したら機材的には何かを加えたり工夫したりするところがありません。気に入れば最高に素敵なシステム。気に入らなかったら対処のしようがないのです。

そしてアナログのアウトプット端子はサブウーファー出力しかありませんから、半ば趣味のようになってるオシロによるオーディオ波形観測などもできないです。寂しい…
そういう方向のオーディオ趣味にはまったくもって不向きで、結果としては諦めと達観の境地でいろんな邪念はすべて忘れさせてくれます。